ライジングで、人形作家の四谷シモンさんにふれたのだけど、そのシモンさんの初期代表作に『未来と過去のイヴ』という娼婦の人形のシリーズがあるんだよね。
並んだ12体は公表翌日に完売したそうで、そのうち「一番顔がいい」と言われている一体が、お世話になっている写真家の方の事務所にあってさ。
ライジングにも載せたんだけど(記事中のシモンドール3体の写真のうち一番左のもの)、これがかっこよくて圧倒されちゃうんだよ。私より背が高くって。
この人形は、フランスのSF作家・リラダンの『未来のイヴ』という小説に出てくる「ハダリー」という人造人間がモチーフになっている(はず)。
『未来のイヴ』は、わざわざ歴史的仮名遣いで翻訳されていて、最初はすごく読みづらく感じるんだけど、全体のほとんどが一対一の哲学問答で構成されているので、その古い文体が雰囲気を醸し出して、のめり込んでしまうんだよね。
エワルドという高貴な青年が、ある美女に恋をするんだけど、この美女が、顔や肉体は最高に美しくて手放しがたいのに、知性も教養もなくて話が低俗で反吐がでそうな内面をしている……というわけで、そんな女に恋をしてしまったエワルドが幻滅のあまり自殺を考える(!)というすごい設定で物語がはじまる。
「ああ!誰かがあの肉體からあの魂を取除いてくれないかなあ!」
エワルドは、自分の悩みを発明王エディソンに相談し、次々と不満をぶちまける。
「何の権利あつて、あれほど美しい女が、天才を持たないのでせう!」
「あの女の接吻が私の心に呼びさますものは自殺への欲求のみです」
自分は高貴な人間なのだ、だから好きになる女も徹底して高貴なはずなのだという理想像に囚われて、容姿に心奪われた自分を認めることができず、あくまでも「完璧な女性」を追い求めて罵詈雑言の限りを尽くすエワルド。
すると、発明王エディソンが、その美しい醜女の「外面の美」を完全に写し取った人造人間ハダリーを創り、そしてエワルドは、その人造美女に感動的なほど恋をするという恐ろしい展開になっていく。
人間は自分の抱いた理想・幻想に恋をするのだ、だったらその理想を科学的に作り出しても同じことじゃないか、と。
強烈な科学万能主義批判が込められた作品なんだけど、こういう異常なねじ曲がり方と、ちょうど対をなす逆の方向へ異常にねじ曲がっているのが、「ミスコンは女性差別の集大成」だとか言っている過剰なフェミニズムのイデオロギーなんじゃないかな。
「女も男もあくまでも立派で素晴らしい内面だけを評価されなければならないのであって、容姿なんて愛でてはならないし、異性は容姿に惹きつけられてはならない」
やばいって。それ。